平成二年 七十七歳

白菊に今朝の仏間のはなやげり
喪の便り婚の便りや白い秋
武道館一輪の菊生けてなし
見なれたる庭に緋木瓜の返り花
刈田道遠き山々引き寄せる
蟷螂の死にどころなる大枯野
冬日燦めしいし人の遺作展
畦日向こんなところに冬あざみ
年賀客ふるさとなまりなつかしき
新年や埃かぶれる道祖神
苗木にも赤き一花の寒椿
齢かな此の世気まゝに着ぶくれて
春浅し古りて無人の駅なりし
春の空一景となる大樹かな
春愁やおもちゃの様な炊飯器
これよりは世の荒波に卒業す
三月やひ孫三人来ると言う
供華とせん塵も留めぬ黄水仙
連翹のうえを飛び行く大烏
雀の子少女に赤きランドセル
春はやて止みて白々過疎の町
嫁姑芽起し風の畑の中
孔子廟初夏に杖引く九十翁
旧姓で呼ばれ八十八夜かな
古里は女達らの茶摘み頃
長老と言はれ明治や額の花
葉桜の下のベンチに亡父を見し
城沼の岸辺うづめて花菖蒲
炎天に浮苗正す農の主婦
六月や草木のにおい地の匂い
更衣目にまぶしかり高校生
緑陰や若き母子と紙袋
中学生眼鏡に映る青あらし
天仰ぐ砂漠の如き茄子畑
越後にも越前浜有り夏の海
浜通りここ日本海雲の峰
疲れ寝の覚めてつくつく法師かな
秋暑し農夫ごくごく水を飲む
背伸びして我が誕生日柿をもぐ
天高し大き花束届きけり
入海に数へきれない浮寝鳥
散り果てしにせあかしやの景も良し
少年の夢見るひとみ寒星座
ひたすらに生きて女の夏祭り
音を聞く晩夏の雨の激しさよ
夏惜しむ去り行く影の白々と
我が昼餉むすび一つにちゝろ鳴く
秋扇をバックにひそめねむり入る

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