昭和六十一年 七十三歳

冬木立鉄扉の固く閉ざされし
頑くなにつぼみ抱きて冬そうび
畦燒きの寡黙な人の父に似し
笹鳴きの来ているらしき小笹叢
春愁や柱時計の音さいも
仁王像の恕髪の前にさいづれり
初蝶の低くよぎりて影を曳く
ふと命いとしと思ふ菊根分
父の座も夏炉も消えし郷の家
小買物フラット出でし町薄暑
棟梁の腕を組みおり立葵
水栓のしたゝりにおく盆の供華
秋の蝶薄暮に羽根をたゝみをり
虫時雨子との別居も良しとせり
草の花岸の向ふは上州路

戻る