昭和五十九年 七十一歳

病む人を見舞えて多摩の夕がすみ
春月の浮き出て宙に遊びけり
頑なに居座る寒さ春炬燵
春は逝く不器用に道歩み来て
ガラス戸のすけてつゝじの燃えており
夜も更けて一人の時は螻蛄の鳴く
紫陽花や支へたくなるよべの雨
移り住み終の地なるや草いきれ
秋の雷山にひゞきてすぐ止みぬ
神木に古きお守り秋の風
人形の胸に挿しおく愛の羽根
はるかにも子の住む空や十三夜

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