昭和五十八年 七十歳

恙なく日々を送るなり返り花
人寄れば老後の話冬すみれ
年の瀬や吾も雑沓の中におり
湯気立ちし冬至南瓜をいたゞけり
機音の止みたる町や松の内
異国人手話の通じて暖かき
ハワイより帰りし故郷粉雪降る
亡き父を偲びつ目刺燒きており
子に送るたゞそれだけで薯を植う
白木蓮のはるか彼方に空ありぬ
ぼうふらも命の限り生きんとす
渓流に河鹿を鳴かせ峡の村
こゝよりは下乗とあるや夏木立
何もなき青田の中の無人駅
松の影しづめて泉湧きにけり
今日生きて明日なき人の銀河濃し
さわやかに修行寺なりと書きてあり
月さして白き道行く影一つ
初暦未知なる月日並びけり
春立つと厨の水の音立つる

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